笹塚diary

渋谷区笹塚を愛し、この場所で生活するシングルマザーの日記

2024.3.6-3.8: 元ガモの冒険

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あの日、家に戻ってから、彼が渋谷区の保健所に電話をした。

玉川上水にカモが……」「場所は笹塚橋の下です」「住所は笹塚一丁目の……」

電話の向こうの担当者からは、何度も詳しく場所を聞かれている。

「ありがとうございます。ご確認いただいたらどうだったか教えてもらってもいいですか」
「はい。お手数ですが、亡くなっていたかどうかを教えてもらいたいんです。ずっと気にしていたので」

電話の向こうの担当者も、野鳥の死骸を片付けてほしいという通報だと思ったらやけにシリアスな雰囲気で驚いたことだろう。

玉川上水は水道局の管轄らしく、水道局によって明日の「回収」となると言われた。また、すでに何件か同じような通報が入っていたそうで、元ガモはみんなが気にかけていた地域ガモでもあったのだ、と思った。

その後、やはりカモは亡くなっていたという電話が保健所からあった。 お忙しいだろうにわざわざ折り返しご連絡いただけて、本当にありがたい。

翌々日、橋の下へ行くと横たわっていた元カモはいなくなっていた。 二人で手を合わせ悼んだ。

野生のカモは10年から20年ほど生きるという。もしかしたら元ガモはこの場所で生まれ、つがいで訪れていた春もあったのかもしれない。恋人が数週間前に目撃した「冒険」は、長く馴染んだ街の最後の散歩だったのかもしれない。

橋の下からは河津桜が見える。私がスマホを一日に二度も落とした日の朝、まるで元ガモが見上げているように見えた桜はこの日、見頃を迎えていた。

最期の元ガモの目にはあの美しい桜が映っていたのだろうか。見えていたらいいな。

この世を旅立った元ガモはもう、若い頃のように陸地を軽快に歩くことも、悠々と川の中を泳ぐことも、羽を広げて自由に空を飛ぶこともできるだろう。

きっと、あの満開の桜を見てから、また新しい冒険に出たのだ。