4/25
この日の最高気温25度。夏の匂いがした。
一年をかけて制作していた100ページ超えの媒体が夕方までに校了し、達成感と解放感をしばし味わう。木曜は息子が父親の家へ行くことになっている。少し早く仕事を切り上げ、半袖に着替え、恋人と待ち合わせている三軒茶屋へ向かった。
下高井戸で世田谷線に乗り換える。仕事の後に着替えて一人で三茶へ行くなんて、独身の頃みたい。車内で雨宮まみさんの「女子をこじらせて」の文庫本を読む。数年前に単行本は読んでいたが、文庫版のあとがきと上野千鶴子さんの解説を読みたかったので、図書館で借りてきた。
痛い。痛い本だ。読むのも痛いから書くのはもっと痛かろう。この痛みは脱皮の痛み、脱洗脳の痛みだろう。
それでも雨宮さんは書き残した人だった。
彼と落ち合い、ビルの屋上にある「a-bridge」で少し早い夕食をとる。
気持ちのいい風が通り抜けるテラス席で、夕焼けを眺めながらコロナビールを飲み、タコライスとカレーを食べる、なんてもう、最上級の平日の夕方の過ごし方ではありませんか。これからもこんなご機嫌な夕方を何度でも味わいたいし、この日の風の匂いをずっと覚えていたい。
その後、町屋良平さんと書評家の倉本さおりさんのトークイベントを聞きに、書店「twililight」へ。
町屋さんの新刊「生きる演技」での、作品の主題と難解な状況描写、登場人物たちのリアルな会話のコントラストが生み出す臨場感に圧倒され、そこに込めた思いや工夫を知りたいと思っていたので、直接お聞きすることができてうれしかった。倉本さんの洞察も素晴らしく、発見の連続だった。「優れた読み手」とはまさに彼女のような人のことを言うのだと思う。また、さまざまな場面でお二人が大好きな江國香織さんの話が出て、江國ファンにはおいしいイベントでもあった(私も「きらきらひかる」の書き写しをしていました)。
後にこのイベントのアーカイブ配信があると聞いていたので、この日はお話を聞くことに徹しようと思っていたのに、思わずメモをとってしまう場面もあった。
「読むこと、書くこと」町屋良平さんの回に参加してくださったみなさま、愉しいひとときをありがとうございました! 「はったりとリアリティ」の話の時にみなさん一斉にメモっていた場面が個人的ハイライトでした。町屋さん選書の「偏愛河出文庫フェア」でカナファーニーが売り切れたのが嬉しい📚 https://t.co/hICzGesobs
— 倉本さおり (@kuramotosaori) 2024年4月26日
あの瞬間、猛烈に残したい、留めたい、と思ったのだった。
4/26
朝ドラ「虎に翼」を観ている。
この日は、法律家を志す主人公の父親が贈賄の容疑で連行される回だった。
彼女の母親は筆まめな人だったようで、劇中でもよく日記を書く場面が出てくる。この日も混乱する主人公たちの横で必死にこの日の日記を綴り、こう言うのだ。
「気が動転しているときは記憶があいまいになるでしょう。このことはしっかり記憶しないと」
いつの時代も残したいものがある人はきっと、書き留めようとする衝動を持っている。