笹塚diary

渋谷区笹塚を愛し、この場所で生活するシングルマザーの日記

2024.4.24:彼が書く日記

実はこの日記に登場する恋人も、学生時代からはてなブログ(ダイアリー)で日記を書き続け、それらをまとめてZINEにしたりしている。

大学院を出て編プロに入り、ぎりぎりの生活の中で仕事をし、恋をし、ライターとして独立してからはフリーの荒波にもまれ、ぐちゃぐちゃになりながらも生活を立て直し、やっぱりこの街で生きていくんだ、という決意と20代の青さが綴られた日記。眩しくて、切なくて、大好きだった(それを彼に言うと、バカにしてるでしょ!とむくれるけれど)。

私と付き合い始めてから彼は日記を書かなくなった。そのタイミングについては偶然だと言うが、彼が書き綴っていた生活には私という存在が相応しくない気がし――邪魔だとさえ思った、いっそ別れた方が良いのではないかと勝手に思い詰めたこともあった。それほどに彼が書くブログの世界観が好きだった。

そんな彼が、また別の場所で日記を書き始めたという。再び、自分の言葉で書く練習をしていくそうだ。早速、URLを教えてもらった。
大好きだった書き手の待望の新作。そこにはあの頃のナイーブさそのままに歳を重ねた彼の、美しく硬質な言葉が並んでいた。その一つひとつを何度も読み返した。
「今」の彼が生み出す言葉が、その文章がたまらなく好きだ。これからも彼の隣で彼が書くものを読んでいきたい。

私も、この日記のURLを彼に送った。

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「きょうのはてなブログ」にピックアップしていただきました。今年の元旦から始めたこのブログ、何らかの形で取り上げていただくのは4回目になります。

 

どういう基準で選ばれているのだろうと思い、調べてみたところこんな記事を見つけました。

おもしろくて素敵なのに、まだ読者数が少ない、まだアクセスが多くはない、という記事もたくさんあります。

そんな記事にも光を当てていきたいと考え、さまざまな手法を検討・テストしましたが、最終的には「人の目で探すしかない」という結論に至りました。

(中略)

紹介する記事は、その時点で「週刊はてなブログ編集部」という読者がいます。ささやかなことでも、極めて個人的なことでも、書いたことの先に読者がいる、そして他の人にも読んでほしいと思って紹介している、ということが、少しでも書くことの背中を押す力になれればと思っています。

決してPV数の多いブログではないけど、いただくスターやコメント、ブックマークにいつも励まされています。今回も編集部の方がこのブログをご自身の「目」で探し出し、素敵なコメントとともに背中を押してくださったことに感謝し、これからも書き続けていこうと思います。

2024.4.21-23:希望のかたち

4/21
朝から息子の練習試合の応援へ。結果は惜敗だったけれど、また一段とチーム全体の動きが良くなった気がする。チームメイト一人ひとりの成長が、自分の子の成長と同じようにうれしい。

家に戻り、お昼は恋人と「uni-BAR」へ。二週連続で海老カレーを食べる。外は気持ちの良い天気。お店の大きな窓が全開になっていた。春の風を感じながら食べるカレーはいつもに増しておいしい。今日はカレー日和だ、としみじみ思う。

ピンボケしてしまった

午後の試合は息子の父親が応援しに行くことになっていたのだけれど、やはり私も行きたいと思い立ち、再度家を出た。しかし電車を一本乗り過ごしただけで乗り換えのタイミングが悪く、試合終了の時間に間に合わないことが判明。断念して途中の駅で降り、引き返して帰ってきた。息子は私が再度応援に行こうとしたことさえ知らない。あーあ、何やってるんだろう。

駅まで迎えに来てくれた恋人とカモをみにいく。つがいに新参ガモがちょっかいを出し、そこにハトやらムクドリやらの羽ばたきが加わってなんだか大騒ぎの玉川上水。その様子を見ているだけでも飽きない。
恋人の家に戻って、町屋良平さんの「生きる演技」を読み終えた。圧巻だった。しばらくこの世界に戻ってこれない。彼と何かを話していても、すぐに作品の話に戻してしまう。

夜は栄湯へ。湯舟につかって天井を見上げる。オレンジ色の灯りがぼやけて見えて霞のなかにいるみたい。駅ビルのフレンテに寄ってお寿司と中華総菜を買って帰り、二人でのんびり晩酌をする。

日中、電車で引き返した直後はとても落ち込んだけれど、その後の過ごし方で案外気にならなくなるものだと思った。悔しさも薄れた。それは希望だ。希望のかたちに気づけてよかった。

いつもの日曜日と同じく、乃木坂工事中を見て眠る。思い立って、6月のアンダーライブを申し込んでもらった。当たりますように。

4/22
仕事の休憩時間に行きつけの歯医者へ。二日ぶりに八重歯が入った。

窓際にかわいらしいノラネコぐんだんのフィギュアが並んでいたので、思わず「ノラネコぐんだんお好きなんですか」と先生に尋ねると、「吉祥寺のジムへ通っているんですけど、その待ち時間にガチャガチャをやったりするんですよ。このフィギュア、すごくできがいいですよね」と、意外にも雄弁な返事が返ってきた。

2年ぐらい前からこの歯医者さんには通ってきたのに、ここにきて、しかもこの短い間にずいぶんこの先生のことに詳しくなったな、となんだか愉快な気持ちになった。

5年前の「ノラネコぐんだん展」でgetした戦利品

4/23
夜、古谷誠一の写真集「ChristineFuruya-GosslerMemoire: 1978-1985」を眺めていると「何を読んでるの」と珍しく息子が覗き込んできた。

この写真家はずっとこんな風に奥さんの写真を撮っていたんだけど、この後、この奥さんは幼い子供を残して自殺してしまったんだよ、と話すと「え、怖っ…」とつぶやく息子。

まあ、中学生だもの、そういう反応だよねと思ったが、息子はしばらくして「いや、『切ない』だね」と言い直した。彼の口から切ないという言葉を初めて聞いた気がする。

この写真家が投身自殺をした直後の妻の姿を撮っていたことを話したら、息子の口からはどんな言葉が出てきただろう。

 

2024.4.20:不完全な自分

朝、本を読みながらいちごメロンパンを食べていたら、八重歯が抜けた。

ベッドで寝ている恋人のところへ行き「どうしよう、歯が抜けちゃった」と呟くと、「ええ?」と驚いた顔で起き上がった彼は「さすがに目が覚めた」と言う。歯が抜けてしまうなんて恥ずかしすぎるし、彼にはしばらく内緒にして乗り切ろうかと思ったが、この大変な事態を自分だけで背負いきれる気がしなかった。おそるおそる抜けた歯を見てみると、自分でも覚えてないぐらい前に入れた差し歯だった。

八重歯が生えてきたばかりの頃、「この歯は鬼歯といってよくない歯だから抜く?」と母に尋ねられ、断固拒否をした。その頃の私は、子供の歯の下から大人の歯が生えてきてしまうことがよくあり、歯医者で子供の歯を抜くたびに怖さで大泣きしていた。そんな私が『鬼歯』だからといって「抜く」と答えるわけがない。

八重歯があるために歯並びは悪くなり、虫歯が増え、知らぬ間に八重歯で口の中が傷つき口内炎になり、何かが頭に当たれば八重歯で唇を切る。大人になって定期的に歯医者通いをすることになり、審美面でも歯並びに悩んだ私は、あの時抜いてもらわなかったことをずっと悔やんでいた。母はあの日の幼い私に、ずいぶんと重い選択をさせたものだと思う。

ついに八重歯も虫歯になり、差し歯をつくることになったとき、尖っていない普通の歯の形にしてほしいと歯医者さんに頼んでみようと思った、のだが、そんなオーダーをする間もなく代わりの歯ができあがってきた。もともと生えていた八重歯そっくりのその差し歯を見てがっかりした。

一方で、八重歯は私のアイデンティティでもあった。物心ついた頃から八重歯があるのが私という人間だったし、八重歯をかわいいと言ってくれる人がいる一方で、現代的な美しい歯並びに憧れる私には大きなコンプレックスでもあり、この複雑な感情と一生付き合っていくのだと覚悟を決めていた。

鏡の前で歯が抜けた口を開けてみると、歯の生え変わり期の子どもの口の中みたいだ。今の自分はすごくアンバランスで、あるべきものが欠けている。

恋人が面白がって「口開けて!」と絡んできた。嫌がる私に「歯が抜けてるのがかわいいのに。八重歯もその歯並びも好き」などと言う。その言葉にうれしくなった矢先、自分は完全でなく不完全なものにこそ魅力を感じるのだ、という熱弁を聞かされた。

月曜の午後にかかりつけの歯医者の予約がとれた。あと2日。それまではもう少し、不完全な私でいる。

2024.3.10-3.15 書き続ける努力と才能

日記を書くのをしばらく怠ってしまった。書くことを継続するのは本当に難しい。

何年間も毎日のように更新されていたブログが、ある時を境にぱたりと更新が止まっていたりすることがある。何かあったのかと心配していると、しばらく経ってから更新された記事でその人の気持ちが途切れてしまったことを知る、そんなことがこれまでに何度もあった。

どんな素晴らしい文章を書く人にも書き続けるスキルがあるとは限らない。定期的に更新されているブログの書き手を、私は書くことを継続できる人として無条件に尊敬している。そしてそういう人が綴る日々の記録には心動かされるし、その筆致に憧れたりもする。

というわけで、少し間が空いたけれど、めげずに私も頑張って書き続けてみます。今年こそは「書くことを継続する」スキルをつけたい!

3/10
この翌日の日曜日には、恋人と自転車で和田堀公園まで行き、善福寺川や園内の池にいるマガモカルガモキンクロハジロたちが泳いだりくつろいだりする姿を堪能した。笹塚に帰ってきて、玉川上水カルガモの「つがい」が来ていることを確認。駅前のbb.qオリーブチキンカフェで大好きなフィンガーチキンを買い、夕方から乃木坂46アニバーサリーライブのオンライン中継を観た。

乃木坂のことは数年前から熱心に応援している。推しは賀喜遥香ちゃん(卒業生だと高山一実ちゃん、伊藤万理華ちゃん)。この日のライブは恋人がチケットを取ってくれたのだが、彼がチケット代金を払い忘れるという痛恨のミスを犯して家でのライブ鑑賞となった。でも、推しメンタオルを首からかけて、ビールを飲みチキンを食べながら、ペンライトを振るライブも楽しい。終演後は興奮冷めやらぬまま栄湯へ行き、湯上り飯はいつものフジタカ食堂で。乃木中こと「乃木坂工事中」を観て眠る。大満足の一日だった。

3/10
月曜日の朝は、恋人がフレンチトーストを焼いてくれた。

最近は4枚切りの食パンでつくってくれる

3/12
火曜日、息子の期末考査の結果が返ってきた。運動神経だけはずば抜けてよい息子、体育だけはずっと一桁順位で素晴らしいのだが、主要五教科、特に英語が「高校受験がなくてよかった~」と本人が言うほどひどい(中学受験は英語なしの四教科)。学年順位も下から数えた方が早く、地を這う成績とはこのことか。高校受験がなくとも今後の大学受験のことを考えると頭が痛い。英語の先生も中入生の中だるみはお見通しらしく、早速春休みの宿題として大学受験対策の問題集が渡されていた。うーん、がんばれ!

そんな地を這う息子、夕食の手伝いでは餃子をきれいに羽つきで焼いてくれた。餃子の焼きに関しては私よりうまい。難関大学への進学に力を入れる私立に通わせてはいるけれど、どこかで私は勉強よりも、家事や身の回りのことを自分でできる方が素晴らしいと思ってしまっている。そして、普段から友達や後輩を気遣い、誰からも優しいと言われる息子はわが子ながら素敵だと思う。勉強ができなくても!

(高校生になるとそうも言っていられなくなるらしい。部活の先輩のお母さん談)

3/13
水曜日は、息子が夜、習い事に出かけたため、恋人と一緒に夕食を食べる。この日は兎屋で名物のすき焼きコロッケと笹塚ビールを。

3/14
木曜日は、仕事で訪れた大学のキャンパスにて、池の周辺をつがいで散歩するカルガモを見かけてびっくり、大興奮。こんなところで会えるなんてラッキー!しかも「陸ガモ」だ! 私の喜びぶりに、隣にいたデザイナーさんが「本当に好きなんですね」と笑っていた。はい、本当に好きなんです。

仕事帰りには、bb.qオリーブチキンカフェでお昼。またもフィンガーチキンを食べる。ランチセットでついてくるパンとキャロットラペもおいしい。

オリーブオイルで揚げてあるから軽くてサクサク

3/15
金曜日。息子から、春休みに友達とディズニーランドへ行くからとお小遣いをねだられる。1デーパスポートだけでもびっくりするぐらい高い。さらにパーク内でもそこそこお金は使うだろう。資金援助を承諾した代わりに、3日間夕食をつくってもらうことにした。一日目はオムライス。ケチャップライスにもバターがきいていておいしかった。ベースとなるレシピとふわふわ卵の作り方についてはTikTokを参照したらしい。もう、レシピ本どころかクックパッドさえ見ないのか。この献立ならサラダをつけると栄養バランスがいいね、という余計な言葉はぐっと飲みこむ。次回のメニューも楽しみ。

この一週間、つがいが土手から川辺に降りてくるのを何度か見かけた。あそこが巣ではないのか?という場所を発見し、ついに笹塚で子育ての準備を始めたのかと、恋人と推測して大盛り上がり。

相変わらず仲良しの「つがい」

この期間に読んだ本。

・「東京を生きる」雨宮まみ
・「近代おんな列伝」石井妙子
・「奇跡」林真理子
・「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」大前粟生

図書館で借りた本。

今回は雑誌中心

そんな平日を送るうち、また笹塚で過ごす週末が来る。

2024.3.9:ひとりで代田橋

元ガモが亡くなってから三日。玉川上水の川沿いを歩いてみると、つがいがまた戻ってきていた。あれ以来、びっくりして来なくなってしまうのではないかと心配していたのだけれど、よかった! 二匹揃って一生懸命に川底をつついて食事中。その若い生命力が眩しい。

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家に戻ると恋人のオンライン取材が始まったので外に出る。先週少し寄ってみた代田橋へ、再度足を伸ばしてみることにした。

予感」に立ち寄り、レーズンバニラのアイスをいただく。カメラマンの植本一子さんの手作りなのだそうで、バニラにコクがあり、レーズンも食べ応えがあってめちゃくちゃおいしい。

せっかくおいしいアイスなのにピンボケ

お店に流れるBGMを聴いて思わず「あ、『ブギーバック』 ですね」と言うと、店主さんが「今日はリリースされてから30周年なんですよ」と教えてくれた。あれから30年も経つなんて! 信じられない。同世代の店主さんと90年代カルチャートークで盛り上がった。

今夜はブギーバック」は、私にとってカラオケやスナックで歌う懐メロでもないし、ヒップホップの教養でもない。リアルタイムで真っ直ぐに愛聴していた曲だ。90年代は今の私をつくる核となった時代でもある。あの頃に聴いていた曲はこれからもずっと聴き続けるだろうし、あの頃に触れたカルチャーは、世間にもまれる私を支え続けてくれた。

たまに、ひとまわり下の恋人にあの当時のことを懐かしみながら語った後は、まるでオバサンみたいだ、と落ち込んでしまう。 でも自分にとって大事な時代のことは、本当は胸を張って思い出したいし、こうして嬉々として語りたい。

今度、90年代Oliveのバックナンバーを持ってくることを約束して店を出た。

その後、バックパックブックスさんへ。先日、時間とお金がなくて買えなかった本がすべて買えた! 店主の宮里さんとお隣の「OMIYAGE」の店主であるロボ宙さんとの対談が収録されたZINE「AWOL」も。

家族や恋愛をテーマにした本たち

私にとって、笹塚が恋人と過ごす街だとするなら、代田橋はひとりでも楽しめる街なのかもしれない。

カモのつがいに会えて、食べたかったアイスを食べられて、自分にとって大事なことをたくさん話せて、欲しかった本を買えて、満足な一日になった。

2024.3.6-3.8: 元ガモの冒険

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あの日、家に戻ってから、彼が渋谷区の保健所に電話をした。

玉川上水にカモが……」「場所は笹塚橋の下です」「住所は笹塚一丁目の……」

電話の向こうの担当者からは、何度も詳しく場所を聞かれている。

「ありがとうございます。ご確認いただいたらどうだったか教えてもらってもいいですか」
「はい。お手数ですが、亡くなっていたかどうかを教えてもらいたいんです。ずっと気にしていたので」

電話の向こうの担当者も、野鳥の死骸を片付けてほしいという通報だと思ったらやけにシリアスな雰囲気で驚いたことだろう。

玉川上水は水道局の管轄らしく、水道局によって明日の「回収」となると言われた。また、すでに何件か同じような通報が入っていたそうで、元ガモはみんなが気にかけていた地域ガモでもあったのだ、と思った。

その後、やはりカモは亡くなっていたという電話が保健所からあった。 お忙しいだろうにわざわざ折り返しご連絡いただけて、本当にありがたい。

翌々日、橋の下へ行くと横たわっていた元カモはいなくなっていた。 二人で手を合わせ悼んだ。

野生のカモは10年から20年ほど生きるという。もしかしたら元ガモはこの場所で生まれ、つがいで訪れていた春もあったのかもしれない。恋人が数週間前に目撃した「冒険」は、長く馴染んだ街の最後の散歩だったのかもしれない。

橋の下からは河津桜が見える。私がスマホを一日に二度も落とした日の朝、まるで元ガモが見上げているように見えた桜はこの日、見頃を迎えていた。

最期の元ガモの目にはあの美しい桜が映っていたのだろうか。見えていたらいいな。

この世を旅立った元ガモはもう、若い頃のように陸地を軽快に歩くことも、悠々と川の中を泳ぐことも、羽を広げて自由に空を飛ぶこともできるだろう。

きっと、あの満開の桜を見てから、また新しい冒険に出たのだ。

2024.3.3夜-3.6:元ガモの記録

3月3日
夜は栄湯へ。帰りに川沿いを歩いてみたが、カモたちの姿は見当たらなかった。つがいはいつものように夜は違うところで過ごしているのかもしれない。元ガモはどこかへ出かけているのだろうか。

“湯上り飯”は旧水路近くの「井口」で。銭湯帰りのビールと焼き鳥は最高! 揚げ茄子もおいしい。普段は家の近くのフジタカ食堂へ行くことが多いけれど「笹塚にカモが来ている間は、井口でごはんもいいね」「何といってもカモの近くのお店だし」と言い合う。

 

3月4日
憂鬱な月曜の朝も、カモを見てから出勤するというモチベーションによって支えられている。水辺でうずくまってひなたぼっこしている元ガモがかわいらしかった。

夜は「対岸にいて首をフリフリしていたよ」と恋人から写真付きのLINEで報告あり。その後、息子が父親の家に泊まりに行くと言うので、私は笹塚へ。川辺で寝ている元ガモを見て南口商店街の「さささのさ」で夕食。ここも「カモの近くのお店」だ。

 

3月5日
朝はつがいは川の中、元ガモは陸地で熟睡。3匹の上に咲く河津桜が美しい。雨が降ってきた。

ここ数日の元ガモは寝てばかりで、土手をよちよちと歩いているのを見たのは先週が最後だったか。

夜は「橋の下で雨宿りしていたよ」と恋人から写真付きのLINEで報告あり。いつもスマホのライトをつけてまで元ガモを探しているらしく「玉川上水に落とし物した人だと思われるかな」と笑っていた。

 

3月6日
昨夜に引き続き朝から大雨。今年はなんだか雨が多い気がする。

「お天気悪いから、今朝は見に行くの、やめておく?」と聞いてみたけれど「見に行きたい」と言い張る恋人。「家で待ってる?俺だけで行ってくるよ」と逆に聞かれたので「いやいや、私も行く!」と慌てて上着をつかんで外に出た。雨の中を歩きながら「ねえ、カモいなかったらどうするの?」と冗談めかして言うと、彼は黙って笑っている。

本当に驚いてしまう。彼は昔から「正直、犬や猫のかわいらしさがわからないし、本当に関心がない」と言っており、ペットも一度も飼ったことがないという人だったのだ。

「こんな雨の中でも見に行きたいって言いだすなんて、あきれてる?」と言うので、そんなことないよ、もし、いなくてもいいよ、いない日があるというのも観察の成果だよ、と言いながら、ズボンのすそを雨で濡らしつつ川沿いへ向かった。

「うわ、びっくりした」

恋人の指さす方を見ると、つがいのカモが距離をとって土手の上に佇んでいた。

普段なら川の中か水辺にいる二匹がこんな場所にいるなんて。いつも仲睦まじく寄り添っているので、このように距離をとってじっとしている姿を見たことはなかった。また、こんなに朝早くから見かけるのも初めてだった。「カモってやっぱりおもしろいね、何を考えてるんだろう」と言いながらすぐ傍の橋の下を見ると、首を前に出して横たわる元ガモがいた。

瞬時に、あ、死んでいる、と思った。でも、信じられなかった。信じたくなかった。

カモはくちばしを背中の羽毛にうずめて眠る。「あんな姿勢で寝てるだけだよね?」信じられないのに涙は出てくる。

とりあえず、一度家に戻ることにした。

「後で保健所に連絡してみよう」と言いながら横を歩く彼の表情はよくわからなかった。