目覚めた瞬間から暑い。午前中は笹塚の方に「笹塚diary」の増刷分が届くことになっていたので、自転車で自宅を出る。
笹塚の家に着くとパートナーは起きたところだった。炎天下の中、自転車を漕ぐというひと仕事を済ませてきている私と、起きたばかりで、しかもちょっと昨日の仕事のことで気落ちしている(これは後から知った)彼とはなかなか噛み合わない。なんだか私ばかりが話している気がして「そっちも話してよ」というと、「朝からそんなに話せないよ」とむくれられてしまった。しかしすぐに謝り合って仲直り。偉い。我々は確実に学んでいる。
彼は休日出勤。増刷分の宅配便を受け取って自宅に戻ると、息子がやっと起きてきた。昼は焼きそばにする。豚肉とキャベツ、ピーマン、にんじん、もやしをたっぷり入れた焼きそばを一人分と半分、こんもり皿に盛って出す。残った半分を白ごはんの上にのっけて食べるのが好き。息子の「やっぱり、うまいな~」という言葉を聞いてニマニマする。
午後は、夏休みの宿題になっていた大学の講義動画を一緒に観た。数ある中から息子が選んだのは顧問の先生の母校と夫の母校と私の元勤務先の講義動画。やっぱり彼の大学選びは、自分の興味より「誰」がキーになるのかなと思う。
夕方から、田原町のReadin’ Writin’ BOOK STOREへ。浅井音楽さんとイーストプレス・中野さんによる「いきのびるためのエッセイ(仮)編集会議」。お二人がこれからつくろうとする本の編集会議を公開してしまおうというおもしろい試みだった。
満員の客席はいつも行くイベントとは雰囲気が違い、ありがちな「ばったり」も「偶然」もなく、登壇者のお二人が声をかけてくれてちょっとほっとする。
浅井さんが本やSNSに落とす言葉たちはユーモアと優しさに満ちていて、その言葉と彼のあり方に共感する人たちが集まってくる。そして書店やエッセイに興味を持つ人のすそ野を広げてもいる。近くの席から「こういう本屋さんもあるんだね、いいね」と話している声が聞こえた。
「編集会議」は浅井さんと中野さんの出会いの話から始まり、中野さんが浅井さんへ渡した本の企画書、損益計算書、営業部からのフィードバックまで大公開。そして、本の内容にも関連してくる「エッセイとはそもそもどういうものなのか」。
浅井さんは「ぼくはその人がどういう人なのか知りたい。みんなが思ったことを書き残していったらいいと思う。きっと誰かが共感するから」と言っていた。私自身もそう考えてエッセイや日記を読み、日記を書いている。
一方で、例えば道端に「のぞみ」のキーホルダーが落ちているのを見かけて、「『望み』が落ちてる……」と、面白く思うという話。それを聞いた中野さんが「ぼくは新幹線のキーホルダーが落ちてるな、で終わってしまうんですよ」と言っていたけれど、どちらかといえば私もそっちのタイプ。生活に余白が無くて、いつも日々をパツパツにつなぎ合わせて生きているような気がする。でもエッセイを書くことで、生活の「のりしろ」をつくることができるのではないか。そしてそれが「いき『のびる』」ために書くということなのだと。
客席からの「どうしても気取った文章を書こうとしてしまうのだが、どうしたらいいか」という質問を聞いて(浅井さんの回答は「そのスタンスを貫いてしまえばいい、中途半端が一番が恥ずかしい」だった)、自分にはそうした悩みがないことに気づいた。
私には私の事しか書けないからこそ、ありのままの自分を書き、それを読んでもらうことで、やっと現在の自分を肯定しているようなところがある。「わたしはこんな人間なんですよ!聞いて!」と大声で叫んでいるようなものだから、私ではない私を書くのでは意味がない。読者に正直でいたいのは自分自身のエゴでもあるのだと思った。
お二人の話を聞きながらどんどん目が開かれていくようだった。自分はなぜエッセイを読むのが好きなのか、そしてなぜ自分で日記を書き、人に読まれたいと思うのか。思いを巡らすうち、自分が普段、日記を書いている時の感覚を思い出した。文章を整理していくうちに、そうだったのか、自分はこう思っていたのかという発見の連続がある。浅井さんはエッセイを書くことを「自分のプリズムの形を知ること」ととも言っていた。私もまた、書きながら自分自身と編集会議を開き、自分の形を発見していたのか。
今の自分に差し迫って書かなければならない理由はない。そして、もう、書いて乗り越えなければならない日々も、何かを強く変えたいと思う今もない。人に報告したいような面白い出来事もない。あるのはただ、書き残しておきたいと思う日常だけだ。書かないこともできる。でも、書くことでこそ「いきのびる」ことができる。そして私は、書いている今の自分が好きで、書けなかったあの頃には戻りたくないと思っていて、これからも書き続けていきたいと思っている。
そして、今日は無性に書きたいと思った。
帰ってきてから「励まされました。私もこれからもいきのびるためにものを書いていきます」と二人に感想を送った。