お風呂から出ると、パートナーが「もしかしたら盲腸かもしれない」と言う。前日の夜から続く腹痛の痛みを感じる場所が変わってきていて、今は脇腹が痛いのだという。昨晩の苦しさに比べればそれほどではないので、今日も無理やり寝ようと思えば寝られるけれど、盲腸だった場合には少しでも早く処置をすることが重要らしいから病院にかかりたいとのこと。
もう深夜の1時半をまわっていた。電話で夜間救急を探し、中野の病院で見てもらえることに。タクシーを呼び、甲州街道から乗り込む。その時点での彼は、脇腹を押さえてイタタタ……と笑っていたりしたので、盲腸の疑いがあるということにあまり実感が持てなかったのだけど、受付をして診察室に呼ばれ、検査着に着替えた彼の姿はあまりに病人らしく、ようやく盲腸が現実味を帯びてきた。簡易ベッドに横たわった彼は私に「これ、日記に書けるね」と言ってニヤニヤしている。
しばらく外でお待ちくださいと廊下に出され、検査結果を待っている間は、結果が気になりつつも、不安に耐えられそうになかったので、購読している日記を読んだり、読みかけだった太田明日香さんの『燃え尽きるまで働かない』の文字を追うことに集中した。
検査の結果、やはり虫垂炎との診断。手術と入院点滴、自宅療養で服薬の3つの選択肢が示されたが、自宅療養をすることになった。いわゆる「散らす」というやつだ。点滴で腕を動かせない彼に代わり、同居人として治療に必要な署名をいくつかする。
(生年月日の部分、迷わず昭和に〇をつけた瞬間、横から「ごめん、平成なんだ……」と言われたことを思い出し、今更じわじわきている)
回復まで気をつけることとして「やっぱり煙草はダメですよね?」と若い研修医の先生に食い気味に尋ねると、そうですね、やめた方がいいですね。本当は回復した後もできればやめた方がいいですけどね。まあ、でも煙草を吸えないストレスで胃に穴なんかあいてしまったりするとね。うちの父親も喫煙者ですけど、還暦まで病気ひとつせず、ぴんぴんしてますから、と煮え切らない返答(後からパートナーが、あの先生は喫煙者だな、と言っていた)。
病院から出ると、もう6時前だった。タクシーを拾って笹塚の家へ帰る。朝まで寝ずに過ごしたのはいつぶりだろう。病院へ行く前の電話では、そのまま緊急オペか入院になる可能性もあると聞いていたので、こうして無事、二人で戻ってくることができて良かった。そして、この夜に一緒にいることができて、本当に良かった。
立派に(?)虫垂炎患者と認定されたパートナーは、「最後に一本だけ、いい?」と申し訳なさそうに煙草を吸い、安心したように眠りについた。